
有性生殖と無性生殖
2017年05月29日 00:00
ヒトを含め多くの動物は有性生殖するわけですが、そもそもなんで有性生殖があるかについて復習。
有性生殖のパラドクス
生殖には単一個体が細胞分裂する無性生殖(自分のコピーを作っていくタイプ)と、個体間で配偶子を組み合わせる有性生殖(お互いの遺伝子を交換して新しい子を作っていくタイプ)がある。 単純に考えると有性生殖というのはコストが高い。主な理由は以下のようなところ。
- 増える速度が遅い
- 100の個体がいる集団(有性生殖の場合、オスとメスは各50ずつとする)
- 個体は1度の生殖で子供を2つくると仮定した場合:
- 無性生殖の場合、次世代での子の数は200
- 有性生殖の場合、次世代での子の数は100
- コストが少ない
- 有性生殖を行う場合、以下のコストがかかる:
- 配偶者を探索・保持するための時間やエネルギー
- 交尾中の捕食リスク
- 無性生殖の場合、一人で完結できるのでこうしたコストはかからない
- 有性生殖を行う場合、以下のコストがかかる:
じゃあなんで有性生殖するのか?
ということは、こうしたコストを上回るだけのベネフィットが有性生殖にあるはずだろう、ということで賢い人たちがいくつか仮説を提唱している。多分他にもあるだろうけれど、めぼしいものだけ。
マラーのラチェット
- 無性生殖では有害遺伝子を除去しきれないよ、という説明
- 無性生殖は個体が自分のコピーを増やしていくタイプの生殖
- 有害な遺伝子を持った個体が子供を作ると、子供にもその有害遺伝子がそのまま受け継がれていく
- なので、突然変異がおきてその有害遺伝子が消えない限り、有害遺伝子は消えずにずっと子供に受け継がれてしまう
- ただ「そもそも有害遺伝子に大きな淘汰圧がかかる(有害遺伝子を持った個体は子供を作れず死んでいく)のでずっと受け継がれることはないんじゃない?」という反論もある
コンドラショフ効果
- 有害遺伝子の「閾値」のようなものがあって、無性生殖はその閾値ギリギリになる「綱渡り」状態の個体が除去できないよ、という説明
- 無性生殖の場合、突然変異的に有害遺伝子が出現した場合、それはそのまま次世代に引き継がれる
- もしある有害遺伝子を持った個体の子孫で突然変異が起きて別の有害遺伝子が生じ、閾値に達した場合、そこでその個体は絶滅してしまう
- 有性生殖の場合、有害遺伝子を持っていないわけではないが、閾値ギリギリのところで踏みとどまっている個体が多いだろう
- 有性生殖を行う個体の場合、子孫に遺伝子がそのまま引き継がれるのではなく半分になって引き継がれる
- もし親世代で有害遺伝子が生じても、それがそのまま子世代に伝わるわけではないので、たとえ子世代でまた突然変異による有害遺伝子の出現が起こっても絶滅には至りにくい(だろう)
- 無性生殖の場合、突然変異的に有害遺伝子が出現した場合、それはそのまま次世代に引き継がれる
環境への適応スピード
- 有性生殖の方が適応的な遺伝子(生殖に有利な遺伝子)が広まりやすいよ、という説明 例:ある対立遺伝子Aが適応的となった場合
- 無性生殖
- 突然変異的にAという遺伝子を持つ個体が生じる
- 個体群の中でAを持つ個体が増えるためには…
- (1) 突然変異が一度にたくさん起こるか
- (2) 変異が頻発するか
- ただしこれらの条件が成立するのはなかなか厳しい
- 有性生殖
- ありうる遺伝子型は aa, aA, AA
- 仮にaa, aAの個体同士が有性生殖したとすると、生まれてくる子供の型は
- aa (50%), aA (50%)
- aA同士が有性生殖すれば
- aa (25%), aA (50%), AA (25%)
- という感じで「突然変異」という偶然を待つ無性生殖よりも、有性生殖の方が適応的な遺伝子を持った子供が増えやすい
赤の女王仮説
- 有性生殖の方が無性生殖よりも遺伝子の多様性が高く、多用性が高いことによって寄生者からの侵略に耐えうる、とする説明
- 無性生殖の場合、ある集団内で遺伝子型は(突然変異を除き)ほぼ同じ
- 仮にその遺伝子型に対して驚異的な寄生者(ウイルス、寄生虫などなど)が出てきた場合、その個体群は一網打尽になってしまう
- 有性生殖の場合、ある集団内でも遺伝子型は多種多様
- ある遺伝子型に対して驚異的な寄生者が出てきたとしても、死ぬ個体は最小限に抑えることができる
- 無性生殖の場合、ある集団内で遺伝子型は(突然変異を除き)ほぼ同じ
性の存在と雌雄の存在?
上記のように性(遺伝子の交換)の進化的な適応価については色々な説明がなされている。説明は分かれるところだが、いずれにせよ性があることの利益は大きそうだ。 ただ「じゃあなぜオスとメスがいるのか?」という問いは明確な答えが出ていないらしい。 単なる遺伝子の交換であれば、雌雄同体の生物も存在するので「わざわざオスとメスが別個に存在する」ことの利益については上述の性の適応価とは別の説明が必要だそうな。 この辺りは勉強不足なので、また本を読んで勉強し直したら加筆修正しよう。
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