第3章ログ

2017年07月04日 00:00

第3章の議論ログです

 

第3章は、経済学の十代原則の一つである「交易(取引)はすべての人々をより豊かにする」の詳細についてでした。

この「取引はすべての人を豊かにする」という原則については「人によって得意なことが違うから」というのが漠然とイメージができる。
しかし「全部得意なスーパーマン」的な人がいた時に、わざわざ彼/女よりも劣った人物と仕事を分け合って取引する価値はあるのか?というのがここでの問い。
で、この問いに対して「スーパーマンでも取引した方がいい」というのがこの章の結論。

絶対優位と比較優位

取引するからには何かしらの財を個人(または企業・国)が生産する。
この時に重要なのは「個人がどれくらい生産できるのか」という絶対的な生産力だけではなく、「個人がある財を生産するときの機会コストはいくらか」という相対的な生産コストの比較。

絶対優位
  • 個々人(または企業・国)が持つ、それぞれの生産性を比較した時の優位性
比較優位
  • 個々人(または企業・国)の機会コストを比較した時の優位性

「スーパーマンも取引で得をする」という結論は、取引によって得られる利益が絶対優位ではなく比較優位に基づいているため。

農夫と牛飼はそれぞれ1日に8時間働くものとしよう。ジャガイモを栽培してもいいし、牛を飼育してもいいし、その両方を行なってもいいものとする。(中略)農夫は1オンスのジャガイモを作るのに15分かかり、1オンスの牛肉を作るのに60分かかる。牛飼は、どちらの作業も上手(生産性が高い)なので、1オンスのジャガイモを作るのに10分、1オンスの牛肉を作るのに20分しかかからない。

農夫と牛飼いの個々の生産可能性フロンティアは前回と違って直線になる(第2章では曲線のものを扱った)。
これは単位時間1時間あたりの生産量は個人ごとに固定されているため(どの箇所で時間を別の財に振り分けても、傾きは常に同じ)。

牛飼はどちらもうまくやれるので取引しても特になるのは農夫だけのように見える。

ただ、これをジャガイモの機会コストという面で考えると…

  • 農夫はジャガイモ1オンスを作ることで、牛肉1/4オンスの生産機会を失っている
  • 牛飼はジャガイモ1オンスを作ることで、牛肉1/2オンスの生産機会を失っている
  • つまりジャガイモの機会コストは牛飼の方が大きい
    • 言い換えると、牛飼は農夫よりも、ジャガイモを作ることでより多くのものを失う(損をする)
    • この時、農夫はジャガイモの生産に関して、牛飼よりも高い比較優位性を持っていると言える
牛飼にとっては…
  • 1オンスのジャガイモの機会コストは1/2オンスの牛肉
  • 1オンスの牛肉の機会コストは2オンスのジャガイモ
  • 1オンスの牛肉を余分に作って、それを2オンス以上のジャガイモと交換できるなら楽!
農夫にとっては…
  • 1オンスのジャガイモの機会コストは1/4オンスの牛肉
  • 1オンスの牛肉の機会コストは4オンスのジャガイモ
  • 4オンスのジャガイモを余分に作って、それを1オンス以上の牛肉と交換できるなら楽!

なのでお互いの取引価格が、牛肉1オンスあたりの単価がジャガイモ2オンス〜4オンスの間なら、取引した方が双方にとって特になる(表1参照)。

表の例の場合は、もう農夫は完全に牛肉の生産から手を引いて使える時間8時間を全てジャガイモに費やしている。
牛飼はジャガイモの生産を農夫に任せることにしたので、それまでジャガイモ生産に割いていた時間を4時間から2時間に減らして、その代わり2時間を牛肉の生産に費やしている。

 

本中では農夫が「僕ばっかり得をしているように見えて、君には取引する利点がないように見えるけど…」と言っているが、表でまとめてみると実は取引をすることでより得をしているのは牛飼の側なのも分かる。わお。

 

今回は章末にある応用問題が選択式だったのと、あまり議論するというよりは確認問題に近いものだったので割愛…。

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というわけで第3章は「個人の得手不得手」のようなものを考慮した上で、取引がそれぞれの(相対的な)得意分野に特化することを可能にし、それが結果的に個人の利益を増やしてくれることが示された。

取引した方が良いかどうかは「機会コスト」に依存している。
この機会コストは、それぞれの「得手不得手」の指標になると同時に、取引における財の値段を決める役割も持つ。

なのでこの章では、ある財を生産することで失われる財を他の人が補填してくれるならば取引した方が良いし、そうでないならしない方がいいよ、ということを機会コストを使えば定量的に表現できるよ、という。

 

これで第I部の入門編は終了!
次回からは第II部ということで、ミクロ経済学の話に入ります。次回第4章は需要と供給の作用〜。

 

 

 

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